ランキングを超えたジャーナルの価値の実証
白書


はじめに
学術のあらゆる分野を網羅する出版社として、私たちは、妥当性が適切に確認されたすべての研究には価値があり、それぞれが知識と理解の深化に貢献していると考えています。1
しかしながら、ジャーナルに序列をつけるランキングシステムは、今なお賛否が分かれるテーマです。2 ジャーナルの評価や比較において、一定の標準化は有用である一方で、ジャーナル・インパクト・ファクター(以下JIF)や被引用数といった指標は、研究の重要性や新規性を測る尺度として過度に重視される傾向があります。こうした指標は、研究の質や堅牢性の代替とされるべきではなく、それらはより一貫して評価されるべきです。インパクト指標は学術的な意義に偏重する傾向があり、研究が持つ社会的・文化的・政策的な影響といった、研究者や社会全体にとって重要な側面を見落としがちです。3
JIFへの過度な依存は、研究者や研究資金提供者にとって懸念事項となっています。引用 されやすいテーマに偏重することで、革新的または探索的な研究が軽視されるおそれが あります。さらに、短期的なインパクトのみに注目することは、学際的研究の価値を捉えきれないという証拠もあります。学際的研究は、短期的には従来の指標では低く評価 されがちですが、長期的には大きな影響力を持つことが少なくありません。4
この白書は、JIFで低く評価されているジャーナルであっても広く利用されており、専門分野の支援やインクルーシブな 研究環境の促進を通じて、グローバルな研究の発展に実際に貢献していることを明らかにします。
シュプリンガーネイチャーは、オープンアクセス(OA)への移行を進める中で、妥当性が適切に確認されたすべての研究を、ジャーナルのランキングにかかわらず、できる限り多くの人々に届けることを目指しています。OAは、知識へのより公平なアクセスを可能にし、世界中の多様な研究コミュニティーを支援します。本白書は、JIFが高いジャーナルに限らず、すべてのジャーナルにおいてOAを推進することが、より公平でインクルーシブな研究環境を構築するうえで不可欠であることを明らかにしています。
1 Inclusive Science at Springer Nature
2 The Journal Impact Factor: A Brief History, Critique, and Discussion of Adverse Effects
3 Rethinking impact factors: better ways to judge a journal
4 Interdisciplinary researchers attain better long-term funding performance
Steven Inchcoombe
President, Research, Springer Nature
概要


学術出版の世界では、インパクトに関する議論が中心となりがちであり、ジャーナルのランキングや被引用数といった指標が、他の評価軸よりも優先される傾向があります。5 本白書では、こうした偏重に疑問を投げかけ、下位四分位(Q3およびQ4)に位置づけられるシュプリンガーネイチャーのジャーナル6 が、グローバルな研究活動を支えるうえで果たしている重要な役割に着目します。これらのジャーナルは、ニッチな分野、新興領域、多様な研究コミュニティーにとって不可欠な発表の場を提供し、アクセシビリティ、包括性、知識の共有を推進しています。
JIFを超えたインパクトの実証を目的として、シュプリンガーネイチャーのジャーナルを四分位別に分類し、利用動向を分析しました。分析に用いたデータは、2023年版Journal Citation Reports(JCR)に基づくジャーナルランキングと、SpringerおよびBMCのジャーナルに関する過去5年間(2019〜2023)の利用統計です。なお、JIFにおける極端な値の影響を避けるため、Nature Portfolioのジャーナルは分析対象から除外しています。データ分析の詳細については、「方法論」セクションをご覧ください。
5 シュプリンガーネイチャー (2025年4月)。The state of research assessment: Researcher perspectives on evaluation practices.
6 SpringerとBMCのインプリントを含む。すべてのNature Portfolioのタイトルは除外。
今回の調査で明らかになったこと
1. 妥当性が確認されたすべての研究には価値がある
Q3およびQ4に位置づけられるジャーナルは、包摂的な科学のあり方を支える重要な役割を果たしており、新たな手法、観察研究、分野特有の進展など、漸進的かつ基盤的な研究を数多く発表している。
2. Q3およびQ4に位置づけられるジャーナルは、専門分野や新興領域の発展と維持に貢献している
シュプリンガーネイチャーのQ3およびQ4ジャーナルは、80を超える分野にわたり、全体の50%以上の論文利用実績を生み出しており、小規模で専門的な研究コミュニティーにとって不可欠な発表の場となっている。
3. グローバルな対話と公平性を支える重要なプラットフォームを提供している
Q3およびQ4に位置づけられるジャーナルは、低・中所得国(LMICs)の研究者や、キャリア初期の研究者(ECRs)を支援するうえで重要な役割を果たしており、彼らの可視性を高め、発表の機会を広げている。
4. ジャーナルのランキングは固定的なものではない
新しいジャーナルや専門分野に特化したジャーナルは、JCRに初めて登録された際、下位四分位(Q3・Q4)に位置づけられるか、JIFが付与されていないことが多い。しかし、こうしたランキングは時間の経過とともに変動するものである。シュプリンガーネイチャーのジャーナルのうち、2019年から2023年の間にQ3・Q4または未ランキングであったものの約半数が、最新のJCRにおいてQ1またはQ2に昇格している。
5. Q3およびQ4ジャーナルに対する顕著かつ拡大する関心
- 2023年単年で、Q3およびQ4に分類されるジャーナルは、シュプリンガーネイチャーの全タイトルにおける利用実績の22%を占めており、これはフルテキストの閲覧数およびアクセス拒否件数(非ライセンス論文へのアクセス試行)を含むものである。
- 2023年におけるQ3およびQ4ジャーナルの平均年間利用増加率は27%であり、Q1およびQ2ジャーナルの17%と比較して高い伸びを示している。
- Q3およびQ4ジャーナルの読者層は、中国、米国、インドといった研究生産性の高い国々に広がっている。
ケーススタディ
Q3およびQ4ジャーナルの価値についての現場の声も紹介します。これらのジャーナルが多様な研究成果を支え、包括性を促進し、グローバルな研究エコシステムを支えている実際の事例を取り上げます。
寄稿者
ジャーナル指標におけるオープンアクセス(OA)の役割
研究コミュニティーがオープンアクセス(OA)に移行する中で、JIFのような従来の指標に依存するのではなく、より幅広い観点からジャーナルの特性を評価する必要性が高まっています。7 たとえば、研究成果をより多様で広範なコミュニティーに届けることも、その一つです。8 この白書では、Q3およびQ4ジャーナルが包括性を促進し、多様な声を広く伝え、地域特有の課題に取り組んでいることを示しており、これらのジャーナルが、グローバルな研究コミュニティー全体に貢献する、より公平な研究環境の構築において重要な役割を果たしていることがわかります。
7 San Francisco Declaration on Research Assessment
8 Rethinking impact factors: better ways to judge a journal