専門性の高い分野や新興領域の発展と維持


Q3およびQ4ジャーナルは、専門性の高い分野や新興領域の研究を構築・維持するうえで重要な役割を果たしています。これらのジャーナルは、規模の小さい分野別の学術コミュニティーに対応しており、しばしばその分野における主要な、あるいは唯一の発表の場となっています。こうした分野は、引用数が多くはないかもしれませんが、そこで生み出される知見は、理解の深化やイノベーションの推進にとって不可欠です。
「専門性の高いジャーナルは、より記述的・観察的な研究が多く掲載されます。学部生を含む初学者に選ばれることもありますし、将来的な分析や仮説の出発点となる基礎データとして活用されることもあります」
Sandra Maria Hartz
Hartz氏はまた、これらの専門性の高いジャーナルが特定の研究タイプや「より地域的・ローカルな重要性を持つ研究」にとっても重要であると指摘しています。このことは、Q3およびQ4ジャーナルが、インパクトの高いジャーナルでは見過ごされがちな独自の研究ニーズに応えており、多様な分野や地域の発展を支えていることを裏付けています。
これまで、こうした専門性の高い分野の研究者たちは、学会や個人的なネットワークを通じて非公式に知見を共有してきた経緯があります。しかし、今日のグローバルな研究環境においては、口コミや学会での個別のやり取りだけでは、効率的でも公平でもありません。Q3およびQ4ジャーナルは、グローバルな知識共有を促進し、公平な科学の進展を推進するうえで、極めて重要な役割を果たしています。
Q3・Q4ジャーナルの利用状況が示す、特定の研究コミュニティーとの強い結びつき
シュプリンガーネイチャーのジャーナル利用状況を分析すると、こうしたコンテンツに対する高い需要が明らかになっており、ニッチな研究分野に特化したコミュニティー向けジャーナルが、専門知識の共有において重要な拠点となっていることが浮き彫りになっています。
80を超える分野において、シュプリンガーネイチャーのQ3およびQ4ジャーナルは全体の利用実績の50%以上を占めており10、そのうち60分野ではQ3・Q4ジャーナルのみが支えとなっています。
10 ダウンロード数(本文の閲覧)およびアクセス拒否件数を合算
以下の20の分野(図1)は、シュプリンガーネイチャーのポートフォリオにおいて、Q3およびQ4ジャーナル、ならびに未ランキングのジャーナルが、全体のダウンロード数(本文の閲覧)の中で高い割合を占めていることを示しています。この結果は、特定の研究コミュニティーにおけるQ3・Q4ジャーナルの関連性と価値を裏付けています。
図1: ジャーナルランキング別に見たジャーナル数。円グラフはQ3・Q4・未ランキングジャーナルが総アイテムリクエスト数(本文ダウンロード数)に占める割合、分野別(2019~2023年)
表1:タイトルのランキングおよび分野別に見た、2019年から2023年までのアイテム総リクエスト数
分野 |
Q1・Q2に分類され るジャーナル数 |
Q3・Q4・未ランキングの ジャーナル数 |
Q3・Q4および未ランキングのジャーナルが総アイテムリクエスト数に占める割合(%) |
---|---|---|---|
Engineering, electrical & electronic |
1 |
8 |
96 |
Engineering, chemical |
1 |
6 |
89 |
Electrochemistry |
1 |
4 |
86 |
Environmental sciences |
6 |
16 |
82 |
Economics, business, finance |
1 |
3 |
73 |
Biochemistry & molecular biology |
2 |
9 |
72 |
Cardiac & cardiovascular systems |
8 |
13 |
62 |
Sociology |
2 |
6 |
60 |
Statistics & probability |
5 |
16 |
54 |
Gerontology |
1 |
3 |
54 |
Chemistry, medicinal, pharmacology & pharmacy |
1 |
3 |
54 |
Mathematical & computational biology |
2 |
4 |
54 |
Physics, mathematical |
2 |
2 |
53 |
Chemistry, inorganic & nuclear |
1 |
4 |
53 |
Automation & control systems |
1 |
3 |
53 |
Mathematics, applied, physics, mathematical |
1 |
2 |
52 |
Ophthalmology |
7 |
5 |
52 |
Engineering, civil |
3 |
3 |
51 |
Immunology |
2 |
3 |
51 |
Clinical neurology |
5 |
6 |
50 |
ケーススタディ
AIDS Research and Therapy
AIDS Research and Therapy (現在はQ3に分類)は、Q1やQ2ジャーナルが求める厳格な新規性やデータセットの要件を満たさない場合でも、臨床的に意義のある研究を支えています。こうした研究は、とりわけ各地域の医療現場や政策立案の場面で重要な役割を果たしています。
「アフリカから出てくるデータは、資金の制約から限られた対象数による単一のケーススタディであることが多いです。しかし、差別化されたサービス提供がうまく機能していることを示す論文が20報も発表されれば、それを受けて国や組織がその手法を採用することも可能になるのです」
Barbara Castelnuovo
同氏の発言は、小規模な研究であっても、集積されたエビデンスが臨床現場や政策における実践的な変化を促す力を持つことを示しています。これはアフリカや東南アジアにおけるHIV研究のような専門性の高い分野において、特に重要です。
Q3およびQ4ジャーナルは、このようなタイプの研究を支えるうえで、独自の役割を果たしています。これらのジャーナルは、資金不足、小規模なサンプルサイズ、限られた研究資源といった、十分な支援を受けられない地域の研究者が直面する固有の課題に対応しながら、厳格な科学的基準を維持し、質の高い研究成果を発表する場を提供しています。
すべての研究者の貢献に価値を認める、包摂的で公平な出版エコシステムの構築において、これらのジャーナルは欠かせない存在です。